蜜月まで何マイル?

    “なン年経っても”
 


いまだ制覇した者はあの海賊王 ゴール・D・ロジャーのみとされ、
最終島だというラフテルに関する詳細も不明な、
“偉大なる航路”グランドライン。
完全な凪により風も波も止まったままという、
大型海王類の巣、カームベルトで護られて、
永の歳月を前人未到とされて来た航路だったが。
海賊王が処刑された折に放った爆弾発言以降、
乱入する荒くれたちに少しずつ侵食されたその結果か、
その有り様も徐々に明らかになっており。
ただ単に無法者らを取り締まりたいだけの海軍とは微妙に一線を画し、
何やら公けには出来ぬ秘密もて、
偏重著しい統率をしいて来た世界政府もまた、
割拠して立つ強壮な勢力への対処に
とうとう なりふり構わなくなってのことだろか。
あの、途轍もなく壮絶だった頂上決戦以降の方針には、
微妙に穴だらけの観もある…とは、新世界の事情通らのオフレコだったが。


  ともあれ


意味深なその名も“新世界”という、
ますます苛酷な航路の後半へいよいよ挑むとあって。
各々がそれぞれに、離れ離れになったままの地で、
2年を費やして腕を磨きし、頼もしきクルーたちが再び集結した、
我らが主人公“麦ワラ海賊団”もまた。
満を持しての船出、新たなる冒険に繰り出した……ワケなのだが。




      ◇◇


何と言っても、
十代後半という成長期の2年を過ごした顔触れだけに。
(一部 3名ほどを除く・苦笑)
それぞれの成長、まずはの見栄えへも及んでおり。
髪が伸びたの、雄々しくなったの、
精悍さが増したの…と、何かと変わっている面々もおれば。

 「…不思議だよなぁ。」
 「ああ。」

なぁんでか、ちっとも代わり映えのしないのもいて。
そもそもの土台が愛らしい生き物だった、
そんなトナカイドクターのチョッパーはともかくとして。
(苦笑)

  四皇・白髭の率いる強大な海賊団を迎え撃つべく、
  七武海から海軍大将まで居合わせた、
  あの壮絶な決戦で心身共に揉まれたのち。
  女護ヶ島のご近所の大型の魔獣だらけな島にて、
  あの伝説の冥王様に、2年がかりで鍛えられたという誰かさん。
  そう、我らがルフィ船長さんもまた、

 「さして代わり映えしてないってのは、どういうことだろな。」

前髪で覆っていた目許が逆になったというのはどういう変化か、
勿論のこと、それ以外にもそれなり、
あちこち雄々しくなった…らしいサンジが、
ついつい小首を傾げるのも無理はなく。
ちんまりとした身長や体格は元より、
ふくふくした頬やら すべらかなおでこも、
黒みが滲み出て来そうな潤みの強い双眸に、
拗ねたり微笑ったりと表情豊かな口許といい。

 「あれじゃね? ゴムってのは ある程度は形状記憶素材だし。」
 「…そういうもんかぁ?」

第一、あいつが悪魔の実喰ったのって、10年前って言ってなかったか?
ブブー。サンジよ、これからは全ての年数が2年増しだ。
ほほぉ、そんな風に茶化すかお前…という、
サンジ&ウソップの会話がこっそり交わされた、それから少し経った後のこと。

 「何でだよっ!」
 「だから、何でってことでもなかろうよ。」

見事な緑の芝が広がる大甲板にて、
早速のお昼寝か、はたまたトレーニングでも始めるものか。
航行には今のところは関わりないお顔、
こちらさんも、随分と精悍さの増した剣豪が、
明るいところへ進み出て来たところを追って。
麦ワラ帽子に蚊トンボのような体躯も相変わらずの、
お子様船長がまとわり着くよに出て来たかと思ったその途端、
始まったのがこの舌戦。
仲のよろしいことでと微笑ましげに、
少し上のデッキから見下ろしていたナミがギョッとし、
そのままキャビンへ引っ込みかけた足がぴたりと止まったほどの勢いであり。

 「お前だって、
  そんな危ねぇトコに傷が増えてんだろが。」

 「だから、
  ゾロが顔に傷増やしたのを
  怒ってんじゃねぇって言ってんじゃんかっ!」

どうやら、逢えなかった間に相手が変わってたところへの、
ちょっとした“いちゃもん”つけであるらしく。
そういえば、
あの大決戦の場にいたルフィはともかく、
戦闘隊長でもあるゾロまでもが、
相当に目立つ向こう傷を増やしており。
これまでにだって、胸板や足首へ途轍もない傷を負ったし、
大きな諍いのたび、そりゃあもうぼろぼろになって戦い抜く彼だもの、
傷としては残らなんだものまで数えれば、
どれほどのこと、深い怪我をばかり負った身かは知れなくて。

 「…そうよね。
  あいつがああまでの傷を残してるなんて、
  尋常なことじゃあないワケだから。」

本人が平気だと言やあ“そっか”と応じて、
あんまり詮索もせずのお節介も焼かないルフィだが、

 “しかも、相手があのゾロではね。”

特に宣言された訳じゃあないけれど、
(というか、そんな鬱陶しいものされても困るが)
この一味の中では もはや公認に等しいほどに、
包み隠しもしないほど、むしろ胸張った恋仲でもある二人なので。
隠しごと、それもその身にまつわる重大事を明かしてもらえないのは、
成程、ルフィであれ気が気じゃないのかも知れぬ。
しかも、

 「やっぱそうか。俺には見せらんない何かが増えたなっ!」
 「…なんでそうなる。」

躍起になってるルフィに対し、
妙に温度差があるゾロの態度も ちとおかしいような。

 “…いやいや。無いものは無いって言ってるだけかも?”

くどいようだが、あの脳みそまで筋肉かもしれない剣士である。
言い逃れなんて高度なことがこうまで通せるのはおかしいというか、
そのっくらいのことなぞと、面倒になって折れるのが常套じゃあなかったか。
それを思うと不審じゃああったが、
ただ単に、久々のバカップルらしき言動、
馬鹿馬鹿しい意地の張り合いを繰り広げているだけなのかも知れぬ。

 “…面倒臭い子たちだこと。”

穏やかな陽が降りそそぎ、
爽やかな潮風の吹きわたる心地のいい空気の中。
そういうややこしい喧噪に騒がされる日々もまた、
間近へ戻って来たんだなぁとの感慨もひとしおで。
思わぬ成り行きへ 微妙に斜めになりつつも、
やれやれと肩を落としてから、
ふんっと鼻息荒くも 気勢を持ち直したナミさんとしては、

 「そうよねぇ、気になるわよねぇvv」

  あ〜んな可愛らしい、
  ベローナちゃんだっけ、女の子と知り合いになってたんだし。
  離れ離れだった2年の間に、
  何かあったんじゃなかろかって疑われてもしょうがないんじゃあ…と。

勿論のこと、
そんな器用な浮名流しができるような男じゃあないのを判っていて、
茶化すの半分、わざとに口にしたところ。
そんな航海士さんの傍らからは、

 「そうね。
  きっと手玉に取られまくりだったろう鷹の目も、
  2年の間、ずっと一緒にいた訳だし。」

 「………もしもし? ロビン?」

  そこまで持ち出すと、話がややこしくなるんじゃあ?
  あらそうかしら。だって、

 「あの鷹の目に、何されたか知れねぇって訊いてんだっ。」

何か言いかかったロビンのお声に先んじて、
剣豪様の胸倉捕まえ、ルフィが続けたお言いようへ、

 「ほらvv」
 「…………“ほらvv”じゃない。」

それは朗らかににっこり微笑ったロビンと真逆、
さっきまでは 軽快にからかう側だったナミが、
いきなり…微妙に眉を顰めてしまう。

 「いや、だって、それはないと思うのよね。」

 「あら、どうして?」

 「だって相手はあの大剣豪で、
  ウチの筋肉バカ以上に、
  剣のみに生きてるような男だっていうし。
  ウチの筋肉バカも筋肉バカで、
  一途というか脇目も振らないっていうか…。」

 「それでも、2年もの間を寝食共にしていれば
  どんな隙から何が起きるかは判らないわよ?」

 「ええまあ、それはそうだろうけれど。」

何でまた、アタシがあんな奴の弁護に回ってやったのかしらと、
のちのちそれもまた腹立ちの元となったらしいナミであり。
妙齢の女性二人が、そんな珍妙なやり取りをしていたその間にも、

 「疚しくねぇなら見せてみろよっ!」
 「だ〜か〜ら、何でそうも疑いをかけやがんだって訊いてんだっ。」
 「そっちからの質問は、訊いたことに答えてからだろがっ!」
 「……そもそも、何でそっちに優先権があんだよっ。」

おおお、せっかくの男臭さも形無しか、
ついついウッと怯んだほどに、
微妙に押され気味です、剣豪。
(笑)
理屈を回す舌戦とやらはもともと苦手だし、
そこへ加えて、相手がこの船長さんともなりゃあ、
その矛先だって、容易に緩むというか鈍るというか。
相変わらず大きなドングリ目なのを大きくひん剥いて、
ふわふかなところも一向に変化のない頬を心なしか膨らませ。
隠しようもなく“怒っております”というお顔をしていた童顔の船長は、
ややあって……

 その、大きく剥いていた黒々とした眼へと、
 新たな潤みを浮かばせかかったもんだから

 「だ〜〜〜〜っ、判ったっっ!」
 「判ってないじゃんかっ!」

表情豊かな唇を、わなわなとたわめの震わせのしたことで、
剣豪を一気にたじろがせるほど、
今にもしゃくり上げそうな声で紡がれたのは、

 「そうまでムキになんのは、
  やっぱりどっかに大怪我隠してる証拠じゃねぇのかよっ。」

  ………………はい?

航海士さんもまた、大きくズッコケかかったのへは、

 「だから言ったじゃないの。
  どんなに隙のない彼でも、2年もあればその間には何が起きるか判らない。」

すぐお隣りにいた考古学者のお姉様が、
ご丁寧にもそんな詳細を付け加えてくださった。

 「ましてや相手は“七武海”で大剣豪ですもの。
  いくら剣士さんを信じていても、それとこれとは別物。
  ルフィが案じるのも無理ないでしょう?」

 「ロ、ロビン?」

それとも他に、何か案じるお題目があった?と。
やはりにぃっこりと微笑ったお姉様なのへ、
ああ・いや、あのその…と、
言葉を濁したナミだったのは言うまでもなく。

 「で、でもだったら。
  今見えてる他にはどこにも怪我なんてないって、
  一目 見せれば済むんじゃあ……。」

  だって、まぶた塞がれたほどの傷が増えたの隠してないのよ?
  それって隠しようがないからかも知れないわ。
  ううう…。

やっぱり何でまた、しかもロビンほどの論客相手に弁解してるんだろと、
もう泣いちゃうぞとまで思い始めたナミさんの感慨を引っぱたいたのが、
ある意味、すっぱりとしたご本人からの解答の一喝で。

 「だ〜からっ、
  こんなトコで マッパになれるかって言ってんだよっ!」

  ………………☆

おお、そうだったのか、
だから、頑として頷首せぬまま逃げ回っとったんかいと、
呆れたように苦笑した面々の中には、

 「あら残念。」

頬に手を当て、おっとり笑ったお人も約一名ほどいたけれど。

 「あんたたち〜〜〜〜〜っ!」

ややこしい問答で、せっかくの航海日和を鬱陶しく騒がせおってと。
勝手に空回りさせられたことへの憤慨という、
ある意味、八つ当たりも上乗せした拳骨を航海士さんからいただいた、
やっぱり相変わらずなバカップルなのを笑ったか。
くぃーる・こうと甲高く鳴いたかもめが、
これ以上は陸から遠いと離れつつ、いい旅をと見送ったご一行。
一体どんな冒険へ身を投じますやら、
それはこれからのお楽しみ……vv


  「触られて気持ちいい手なのは変わんないけれどもなvv」
  「るふぃぃ〜〜。」
  「そこ、うるさいっっっ






   〜どさくさ・どっとはらい〜  2011.04.26.


  *おかしいな、
   もちっと色っぽいというか甘甘なのを考えてたはずなのに。
(笑)
   というワケで、
   お久し振りにも程があるぞの“蜜月まで…”ですvv
   このシリーズがあったくらいなんだから、
   原作拡張でも
   イチャイチャさせてなかったわけじゃあないはずなんですが、
   パラレルの勢いの方が物凄かったというところでしょうか。


ご感想はこちらまでvv めーるふぉーむvv

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